はじめに:手術まであと半年。私が「わずかな希望」に賭けた理由

マイクロテセ(手術)の予約を入れ、絶望のどん底にいた私。しかし、ただ手をこまねいて半年後を待つことはできませんでした。「もし50%の確率で精子が見つかるのなら、その確率を自分の手で1%でも上げられないか?」
必死に情報を探す中で出会ったのが、「精子は約72日間かけて作られる」という言葉です。
「今から生活を変えれば、3ヶ月後の自分は、今の自分とは違う結果が出るかもしれない」
医学的な診断結果は重く受け止めていましたが、私はあの日から、自分の体を信じて「72日間の習慣改革」を開始しました。これは、病院の先生に指示されたことではなく、あくまで私が「後悔したくない」という一心で始めた、個人的な挑戦の記録です。
徹底した「冷却」と、無理のない範囲での食事改革

まず取り組んだのは、精子にとっての天敵である「熱」を避けることでした。それまで当たり前のように履いていたボクサーパンツをすべて引き出しの奥に追いやり、通気性の良いトランクス(ガラパン)に切り替えました。さらに、毎日の楽しみだった湯船に浸かる入浴をシャワーのみに変更。とにかく「精巣を温めない」ことを24時間意識し続けました。
食事に関しても、できる範囲で変えていきました。仕事が忙しいとついコンビニ飯に頼りがちでしたが、日々の選択肢の中に「精子に良いもの」を紛れ込ませるようにしたのです。 具体的には、魚を積極的に摂ること。DHAやEPAが体に良いと聞き、外食でも焼き魚定食を選ぶようにしました。また、クルミやアーモンドなどのナッツ類を毎日一掴み食べることも習慣にしました。
「今食べているものが、3ヶ月後の自分の力になる」 そう自分に言い聞かせることで、不妊治療という自分ではコントロールできない大きな不安に対し、「自分でコントロールできる習慣」で対抗しているような感覚になれました。
テストステロンを意識した、週4回の筋トレ

「精子を作る能力が低いなら、元となる男性ホルモンをしっかり出そう」と考え、週4回の筋トレを開始しました。
特にスクワットなどの下半身トレーニングを重点的に行い、体全体の代謝とホルモンバランスを整えるイメージで自分を追い込みました。デスクワーク中心でなまっていた体にムチを打つのは正直大変でしたが、筋トレをして汗を流している間だけは、診断結果の悩みから解放されることができました。
この筋トレの習慣は、肉体的な変化以上に、不安で押しつぶされそうだったメンタルを支える大きな柱になっていきました。
運命を変えた「市販精子チェッカー」。デスクの上での1時間の格闘
生活を変えてから約3ヶ月弱が経ったある日。私はAmazonで購入した「市販の精子チェッカー」を手に、自室のデスクに向かっていました。正直、期待はしていませんでした。過去、不妊クリニックの顕微鏡で何度も「精子ゼロ」の結果を見てきたからです。
しかし、スマホのレンズ越しにプレパラートを覗き込んだその瞬間から、私と精子の「格闘」が始まりました。
市販の簡易的なキットということもあり、少しでも光の加減が悪いと何も見えません。ピントを合わせるのも一苦労です。 「やっぱりいないのか……」と諦めかけ、デスクの上でレンズを微調整し続けること、実に1時間。
静まり返った部屋で、根気強く画面を探し続けたその時。 スマホの画面を、白く、小さな、しかし力強く動く物体が横切ったのです。
「いる……! 生きている精子がいる!」
たった数匹だったかもしれません。でも、あの日、無精子症と言われた私にとって、その一匹は絶望を打ち破る巨大な光でした。泣きながら妻を呼び、二人で震えながら、何度も画面を拡大しました。あんなに遠くに感じていた「パパになる」という未来が、今、自分のデスクの上にある。その震えるような感動は、一生忘れることができません。
マイクロテセの回避。そして顕微授精、妊娠へ
すぐに大学病院へ連絡し、再検査を依頼しました。 医師からは「期待しすぎないように」と釘を刺されましたが、検査の結果は「乏精子症」。以前の「無精子症(ゼロ)」という診断から一段階上がり、数十匹の精子が確認されたのです。
「これなら、手術をしなくても採卵日に合わせて精子を凍結できます。マイクロテセは一度中止しましょう」
その言葉を聞いた瞬間、全身の力が抜けました。 その後、顕微授精へと進みましたが、実は妻も「多嚢胞性卵巣症候群」であることが判明し、決して平坦な道ではありませんでした。補助金の回数制限や、高額な不妊治療費。金銭的な不安に震えながら挑んだ2回目の顕微授精で、私たちはついに新しい命を授かることができました。
おわりに:今、一人で抱え込んでいるあなたへ
無精子症と診断され、遺伝子に原因があると言われた時、私は自分の人生が半分終わったような感覚になりました。いや、人生の全てを失ったと感じていたかもしれません。それほど辛く衝撃的な出来事でした。でも、体は応えてくれました。そして、絶望を分かち合った妻との絆は、治療前よりもずっと深いものになりました。
もちろん、私の方法がすべての人に同じ結果をもたらすわけではありません。不妊治療は十人十色で、正解がないからです。だからこそ、誰にも言えない孤独や、ネットの情報に振り回される苦しさが痛いほどわかります。
もし今、あなたが一人で悩み、夜も眠れないほどの不安の中にいるのなら、少しだけお話ししませんか? 同じ景色を見て、同じ痛みを経験した私だからこそ、お伝えできることがあるかもしれません。あなたの心が少しでも軽くなるよう、伴走させてください。

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